脳の病気・症状
Brain disease
脳梗塞の前兆について。初期症状やなりやすい体質はある?

脳梗塞は、脳の血管が詰まることで脳細胞に酸素や栄養が届かなくなる病気です。突然発症することが多いですが、一部では発症前に体の異変が現れるケースもあります。
顔のゆがみや手足のしびれ、言葉の出にくさなどは、脳梗塞の前兆として知られている症状です。こうした症状がみられる場合、脳の血管に異常が起きている可能性があります。
本記事では、脳梗塞の前兆として現れる症状とセルフチェック(FAST)についてわかりやすく解説します。脳梗塞になりやすい人の特徴や女性特有のリスクもまとめているので、気になる症状がある方はぜひ参考にしてください。
脳梗塞の基礎知識

脳梗塞とは、脳の血管が詰まることで血流が途絶え、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなる病気です。血流が遮断されると脳の神経細胞はダメージを受け、全身にさまざまな神経症状が現れます。
脳卒中には「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」などがありますが、日本では脳梗塞が最も多く、脳卒中全体の約7割を占めるとされています。
脳梗塞は突然発症するケースが多い一方で、発症前に体の異変が現れる場合もあります。こうした症状は脳梗塞の前兆である可能性があり、体の変化がみられた時は早期に対処することが重要です。
脳梗塞の前兆

脳梗塞の前兆は、顔や手足、言葉などの機能に異常が現れやすいことが特徴です。特に、体の片側に症状が出るケースは脳梗塞の前触れである可能性があります。
これらの症状が数分〜数十分ほど現れ、自然に治まることを「一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)(TIA)」と呼びます。TIAは短時間で治まることからつい見過ごされがちですが、TIAを起こした方は脳梗塞を発症するリスクが高いという事実があります。
以下の症状がみられた場合、すぐに回復したとしてもできるだけ早く医療機関を受診しましょう。
顔のゆがみ
脳梗塞の前兆として、顔の片側が下がるなどの変化がみられることがあります。口角が片側だけ下がる、笑った時に左右の動きが違うといった症状は注意が必要です。
これは、顔の筋肉を動かす神経のはたらきが妨げられることで起こる症状です。鏡を見たときに顔の左右差が目立つ場合や、家族から表情の変化を指摘された場合は、脳梗塞の可能性も考えられます。
言葉が出にくい・ろれつが回らない
脳梗塞では、言葉に関する症状が現れることもあります。言葉が出にくい・ろれつが回らない・話している内容がうまく伝わらないといった症状が代表的です。
これらの症状は、血流が遮断されることで言語機能を司る脳の部位が影響を受けるために起こります。
手足のしびれ
手足のしびれや脱力も、脳梗塞の前兆としてよくみられる症状です。手足に力が入らず、ものを落とす・歩きにくくなるといった症状が現れます。
これらの症状が体の片側だけに現れる場合は、脳の血管に異常が起きている可能性が考えられます。
視界の異常
脳梗塞になると、片目が見えにくい・視野が狭くなる・視界の一部が見えなくなるといった症状がみられることもあります。
視界の異常は、脳の視覚に関わる領域に血流障害が起きることで生じるものです。
めまい・ふらつき
めまいは耳の病気などでも起こりますが、脳の血流障害が原因となっている可能性もあります。脳梗塞では、これまでに経験したことのない強いめまいが突然現れることも少なくありません。
めまい以外にも、歩行時にまっすぐ歩けない・バランスが取りづらい・ふらついてしまうといった症状がみられる場合は注意が必要です。
脳梗塞の初期症状「FAST」について

脳梗塞の見逃しを防ぐため、世界的に広く使われている「FAST」というチェック方法があります。
FASTは「顔(Face)」「腕(Arm)」「言葉(Speech)」の異常を確認し、「時間(Time)」を無駄にしないことの重要性を示す合言葉です。ここからは、FASTの確認方法を詳しく解説します。
Face(顔)
脳梗塞が疑われる場合、まずは顔のゆがみがないかを確認します。脳梗塞は右脳と左脳のどちらか一方に起きることが多く、体の片側が動かしにくいという特徴的な症状がみられることがあります。
口角が片側だけ下がる、笑ったときに左右差が出るといった症状は、顔面の筋肉を動かす神経が障害されることで起こるものです。
食べたものが口からこぼれたり、周囲の人が異変に気づくことで発見につながるケースが多いとされています。
Arm(腕)
両腕を前に上げた時に、片方だけ下がってしまう場合は異常のサインです。
脳梗塞では、手足のしびれや脱力感が体の片側に現れることが多く、物を持ちにくくなる、力が入りにくくなるといった症状がみられます。そのため、両腕を動かすことで異常がないかを確認します。
Speech(言葉)
ろれつが回らない・言葉が出にくい・簡単な文章がうまく話せないといった症状も、脳梗塞かどうかを見極めるうえでの重要な判断材料です。
患者さんによっては、自分が言葉を話しにくくなるだけでなく、相手の話している内容が理解しづらくなる場合もあります。これは、言語機能を司る脳の部位に障害が生じることが主な原因です。
Time(時間※すぐに受診)
Face(顔)・Arm(腕)・Speech(言葉)に一つでも異常がみられた場合は、できるだけ早く医療機関を受診することが重要です。脳梗塞は、発症からどれだけ早く対応できるかによって予後が大きく左右されます。
脳梗塞の前触れである症状は、数分〜数十分ほど現れた後に自然に治まる(TIA)ことも多くあります。一時的に治まったからと様子を見てしまう方も少なくありませんが、TIAの後90日以内に脳卒中を発症するリスクは15〜20%というデータもあります。
判断が遅れると重い後遺症につながる可能性があるため、少しでも異変を感じた場合は、ためらわずに救急要請(119番)や医療機関の受診を検討してください。
脳梗塞になりやすい人の特徴

脳梗塞は突然発症することが多い病気ですが、その背景には動脈硬化や生活習慣などが関係しています。こうしたリスクは単独でも影響しますが、複数重なることでさらにリスクが高まるとされています。
ここからは、脳梗塞になりやすい人の特徴を見ていきましょう。
高齢
加齢に伴い、血管の弾力は徐々に低下し、動脈硬化が進みやすくなります。動脈硬化は血管の老化現象であり、年齢とともに血管が詰まりやすくなり、脳梗塞の発症リスクが高まるとされています。
発症年齢の平均値は76.2歳で、年齢に比例して発症率が上昇する傾向があります。
高血圧
高血圧は脳梗塞の最大のリスク因子の一つです。血圧が高い状態が続くと血管に強い負担がかかり、血管の壁が傷つきやすくなります。
その結果、動脈硬化や血管障害が進行し、血栓ができやすくなることで脳梗塞につながる可能性があります。
実際のデータでは、高血圧が脳梗塞のリスクに占める割合が24.5%と高い数値を示しています。高血圧は、脳梗塞以外の脳卒中やその他の病気にも深く関わる重要なリスク因子です。
糖尿病
糖尿病は、脳梗塞の発症リスクを高める代表的な生活習慣病の一つです。血糖値の高い状態が続くと血管の内側が傷つき、動脈硬化が進行しやすくなります。
糖尿病がある場合、脳梗塞を含む脳卒中の発症リスクは約2倍に上昇するというデータがあります。
脂質異常症
脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪のバランスが崩れた状態で、動脈硬化の進行に深く関わります。特にLDLコレステロールが増加すると、血管内にプラークが形成され、血管が狭くなる原因となります。
プラークが破綻すると血栓ができやすくなり、脳の血管が詰まることで脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。
脂質異常症は高血圧や糖尿病と並び、動脈硬化を進行させる主要な危険因子です。
喫煙
喫煙は血管内皮を傷つけ、動脈硬化を促進する要因のひとつです。血液を固まりやすくする作用もあり、血栓形成のリスクを高めることが明らかにされています。
喫煙者は、非喫煙者と比較して脳梗塞の発症リスクが高いことが知られています。
喫煙は、脳梗塞以外にもさまざまな病気のリスクを上昇させる危険因子です。将来的な健康を考えるうえで、早い段階から禁煙に取り組むことが重要です。
過度な飲酒
過度な飲酒は血圧の上昇や不整脈の発生につながり、脳梗塞のリスクを高める要因となります。特に、長期にわたる多量飲酒は、生活習慣病の発症や悪化にも関与します。
飲酒と脳卒中の関連を調べた研究では、1日に3合以上お酒を飲む人は、時々飲む人(月に1〜3回)に比べて、脳卒中のリスクが1.6倍に上昇するという結果が報告されました。
肥満
肥満は高血圧や糖尿病、脂質異常症など複数の生活習慣病の原因となり、結果的に脳梗塞のリスクを高めます。特に関連が高いとされるのが、動脈硬化が関与するアテローム血栓性脳梗塞です。
内臓脂肪が蓄積すると、脂肪細胞から血栓を作りやすくする悪玉アディポサイトカイン(PAI-1など)の分泌が増える一方、動脈硬化を抑えるはたらきを持つ善玉アディポサイトカイン(アディポネクチンなど)の分泌は低下します。
このような変化が重なることで、脳梗塞の発症リスクがさらに高まると考えられています。
不整脈
不整脈の中でも、特に心房細動は脳梗塞の重要なリスク因子です。心房細動では心臓内の血流が滞りやすくなり、血栓が形成されやすくなります。
この血栓が血流に乗って脳の血管に詰まることで、心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞を引き起こすことがあります。
心房細動がある場合、脳梗塞の発症リスクは約5倍に上昇すると報告されています。
脳梗塞の女性特有のリスク

脳梗塞は男女ともに発症する病気ですが、女性特有の要因が関係するケースもあります。
妊娠・出産の時期は血液が固まりやすくなるため、血栓ができやすい状態になります。また、経口避妊薬(ピル)の使用も血栓形成のリスクを高める要因の一つです。
さらに、更年期以降は女性ホルモンの減少により動脈硬化が進みやすくなり、閉経後は脳梗塞のリスクが上昇する傾向があります。
脳梗塞は女性より男性の方が発症リスクが高いとされていますが、更年期以降は女性のリスクも上昇し、男女差が縮小するというデータがあります。
まとめ

脳梗塞は突然発症することが多い病気ですが、顔のゆがみや手足のしびれ、言葉の異常など、前兆となる症状が現れることもあります。
こうしたサインに早く気づくことが、重症化を防ぐための第一歩です。特に「FAST」を活用したセルフチェックは、誰でも実践しやすく、異常に気づくための有効な方法といえます。
少しでも気になる症状があれば、自己判断で様子を見るのではなく、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
平尾病院では、患者さんの状態や生活状況を把握したうえで、一人ひとりに合った治療を行っています。「言葉が出にくい」「一時的な手足のしびれがあった」など、気になる症状がある方はお早めにご相談ください。
この記事の監修者
平尾病院 医師 三木 浩一
大正15年創業以来、地域に根ざした脳神経外科診療を担っています。脳卒中・頭痛・認知症など幅広い脳神経疾患に対応するとともに、リハビリテーション医療や慢性期医療にも注力。お子様からご高齢の方まで、患者さん一人ひとりの背景や思いに寄り添った医療の提供を目指しています。
専門資格
- 医学博士
- 日本頭痛学会 専門医
- 日本脳神経外科学会 専門医
- 日本脳卒中学会 専門医
- 日本認知症学会 専門医
略歴
- 帝京大学医学部 卒業
- 福岡赤十字病院 勤務
- 福岡大学病院 勤務
- 福岡大学救命救急センター 勤務
- 釧路労災病院 勤務
- 福岡東医療センター 勤務
- 白十字病院 勤務
- 平尾病院 勤務
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本脳神経外科学会
- 日本脳卒中学会
- 日本リハビリテーション医学会
- 日本認知症学会